これからのフォトニクスは、フォトニクスという枠を超えてさまざまな分野と融合し、本当に必要な技術やものを生み出していく必要があります。フォトニクスに医学・医療・ものづくり・AIの知見や人材が混ざり合うことで、見えない未来の課題を見えるようにし、人間がこれからも健やかに過ごせるように。そのきっかけは、フォトニクス生命工学研究開発拠点からはじまります。
Center of Photonics for Life Science and Industry
これからのフォトニクスは、フォトニクスという枠を超えてさまざまな分野と融合し、本当に必要な技術やものを生み出していく必要があります。フォトニクスに医学・医療・ものづくり・AIの知見や人材が混ざり合うことで、見えない未来の課題を見えるようにし、人間がこれからも健やかに過ごせるように。そのきっかけは、フォトニクス生命工学研究開発拠点からはじまります。
心身の健康を正確に把握しながらそれを持続しつつ、新たな感染症や高齢化社会に強く、かつひとりひとりに優しい医療(セーフティネット)を備えることで、人々がより自由に力を発揮し、夢を叶え、余裕を持って予測不能な事態にも対応できる社会を築けるように。
本研究開発拠点では、このような未来社会を目指すため、高度な生体情報データに基づく健康管理や医療、食環境を実現した「ひとりひとりが健やかに輝く、いのちに優しいフォトニクス社会」 を拠点ビジョンとしました。
そして、大阪大学および参画機関の強みを活かしてこれを実現するために、4つのターゲットを掲げました。これらを達成しつつ、国内外から新たな仲間や技術を集め、拠点ビジョンの実現に向けて、人、大学、企業、自治体が理想的な変化を遂げることを目指します。
フォトニクス生命工学研究開発拠点のビジョンは、さまざまな人たちを交えて3回のワークショップを行い、生まれました。そのビジョンは下記の通りです。
移動が困難な高齢者や過疎地・開発途上国の人々は十分な医療サービスを受けられず、医療格差を生じています。ICTを活用した遠隔診療では、病院や医療従事者がアクセス困難な患者に対して各種検査を実施することが難しく、正確な診断と適切な治療・介入が難しいのが最大の課題です。そこで、小型・低コストな診断・検査機器を実現することで、場所や環境を問わず、高度な医療へのアクセスを可能とし、医療における格差のない社会を目指します。また、患者自身で採取容易な検体による検査技術の確立も、未病や疾患の発見から、感染症の蔓延の把握のために不可欠だと考えています。
現在の医療行為には、どうしても患者やその関係者、そして医療従事者の負担がかかってしまいます。医療行為への精神的、経済的な負担を軽減し、治療や健康維持のための機会を増やすためには、それぞれの立場での課題をひとつずつ解決していくことが必要です。実際の医療処置や投薬において、疾患の個人差や疾病の多様性を考慮したきめ細やかな対応は、治療効果の向上や関係者の負担軽減につながります。これらの実現のため、豊富な生体データを計測できるフォトニクスを活用し、治療方針の決定や健康維持に必要な情報を的確に捉え、ひとりひとりに最適な医療を実現する技術基盤を提供します。
人類の活動は創薬における動物実験、食肉など多くの面で動物資源に依存しているのが現状です。近年、倫理的配慮、急速な人口増加・経済発展に伴う資源の枯渇および工業的畜産が与える環境への負荷への懸念が高まっています。経済的成長を犠牲にせずに創薬、食糧を必要とする全ての人に供給するためには、動物資源を過度に消費する現在の創薬・食生産システムを変革する必要があります。培養細胞を原料とした生物学的機能が精密に再現された人工生体組織の工学的安定生産技術・検査技術は動物資源に頼らない創薬技術・食肉生産を可能とし、人類の持続可能な発展に貢献します。
新しい医療/ヘルスケア技術の実用化と普及の鍵は、開発初期段階から事業化を見据えた緻密な計画を立て、それをいかに正確に実施できるかが重要だと考えています。また、新技術の社会実装による公衆衛生や地域医療に対するアウトカム評価には、地域社会との強力な連携も必要不可欠です。また、検査や治療負担軽減のために生体に優しい光技術の利用も期待され、生体光学情報データベースの構築と活用のためのプラットフォームを整備することにより、各種検査、ヘルスケア、医療において革新的な機器の開発を加速し、人々の健康増進と医療の精度や質の向上に貢献します。
藤田 克昌 [大阪大学 大学院工学研究科]
現在の医療行為には、どうしても患者やその関係者、医療従事者の負担が必要となっています。本課題では豊富な生体データを計測できるフォトニクスを活用し、患者の負担を軽減する非侵襲診断のための光学測定技術や、医療従事者の負担を軽減するための無標識分光診断技術を開発します。最終的には、臨床検査機器、手術ナビゲーションデバイス、ヘルスケアデバイスとして、開発技術の社会実装を目指します。
疾患の個人差や疾病の多様性を考慮したきめ細やかな医療処置や投薬は、治療効果の向上や関係者の負担の軽減に繋がります。本課題では、精密医療に必要となる多様な生体情報の取得を可能とする超高スループット分光分析技術や超解像・超高感度顕微鏡技術を開発します。創薬や治療方針の決定・健康維持に必要な情報を的確に捉える開発技術により、ひとりひとりに最適な医療の実現に貢献します。
参画機関:大阪大学、医薬基盤・健康・栄養研究所、シスメックス株式会社、株式会社ニコン、株式会社ニコンソリューションズ、パナソニック ホールディングス株式会社、クオリプス株式会社、岩谷産業株式会社
永井 秀典 [産業技術総合研究所]
PCRとDNA配列解析技術をワンチップにして小型で高速に検知できるマイクロ流体装置の開発を行っています。培養をしなくても微生物に共通するDNA配列(16S rDNA)を解読できるようにして、40分以内に病原菌の種類を同定できる検出装置の実現を目指しています。さらには、夾雑物の多い唾液、糞便や微量血液などから、多種多様な微生物を誰でも簡便迅速に検出できるシステムを構築して、社会の公衆衛生や感染症対策、健康維持などに貢献できるように目指しています。
疾患回復や健康を阻害する異常な細胞を見つけ出すための1細胞分析チップの開発を行っています。回転による遠心力を利用して簡単に1細胞を捕まえて整列させる(細胞5000個) ことができるマイクロ流路チップに、プラズモンや蛍光など先端分光技術を組み合わせることで、免疫細胞1個のシグナル分子を検出分析する技術の確立を目指しています。臨床現場で実用可能な設計とし、また抗がん剤の効果予測などを実現することで患者と医療現場双方の負担軽減に貢献することを目指しています。
参画機関:大阪大学、積水テクノ成型株式会社、株式会社ニッポンジーン、藤森工業株式会社
藤田 聡史 [産業技術総合研究所]
無標識・低侵襲な細胞/組織のイメージングによる生体情報取得は、精密治療/再生医療/創薬分野において益々重要性を増しています。また、創薬開発において、動物やボランティアに頼る前臨床/臨床治験から、それを代替する「試験管内での臨床治験」への転換が求められています。これらの課題を解決するため、本技術開発では、光技術を活用し、無標識かつ低侵襲での細胞/組織の状態判定技術を開発し、診断に基づく精密治療・再生医療・創薬開発に貢献できる新しい基盤技術の開発を推進します。
上記の基盤技術(細胞/組織状態判定技術)を実装した細胞/組織評価用チップや検出用デバイスの機器開発を行います。創薬開発に有用な薬効・毒性評価、乳がんなどの臨床サンプルの診断などをターゲットとしたハイコンテント分析を可能にする細胞/組織チップを構築し、チップ検出用デバイスの実用化を推進します。
参画機関:大阪大学、横浜薬科大学、シスメックス株式会社
松崎 典弥 [大阪大学 大学院工学研究科]
(1)培養肉の構築技術および安定生産・品質管理技術の開発: 人口増加・経済発展に伴う動物資源の枯渇および工業的畜産が与える環境負荷への懸念から、細胞を原料として培養肉を生産する3Dバイオプリント技術が新たな食生産技術として注目されています。私たちは和牛のような味・食感・栄養素を再現した培養肉の構築および安定生産・品質管理技術の開発を目指します。本技術により動物資源に頼らない食肉生産の実現に貢献します。
(2)ヒト由来細胞からなる運動器構築技術の開発: 生体様に配向した繊維構造を有し物理化学的・生物学的に生体組織の機能を再現したヒト運動器構築技術の開発を目指します。本技術により加齢、疾患、外傷、障害などに起因する運動機能障害を克服する再生医療の実現に貢献します。
(3)生体内のがん組織の物理化学的特徴を再現した3Dモデルの構築: 創薬における動物実験に対する倫理的配慮、患者個々人の疾患に最適化した創薬、治療法選択への要求の高まりから、3Dバイオプリンティングを用いた立体組織体の構築は創薬分野、再生医療分野においても重要な技術です。私たちは生体内のがん組織を再現した患者由来3Dがんモデルの構築および、3Dモデルを用いた薬剤評価システムの開発を目指します。本技術により動物資源に頼らない創薬や個々人に最適化された医療、すなわち、ひとりひとりに寄り添う精密な医療の実現に貢献します。
参画機関:大阪大学、TOPPANホールディングス株式会社、株式会社島津製作所、伊藤ハム米久ホールディングス株式会社
渡辺 玲 [大阪大学 大学院医学系研究科]
医学技術が進み、診断、治療技術の向上が目覚ましい中、患者さんにとって診断に至るプロセスは依然として侵襲を伴うものが多く、結果が得られるまで検査により様々に時間を要します。また、多様な検査法の原理や精度、患者さんへの負担、所要時間などを理解し最善の検査計画、治療計画を組まなければならない医療従事者の負担も増しています。私たちは、工学・医学分野の連携研究を加速させ、新しい光学計測、解析を統合して「今まで見えなかったものを見る」診断手法に挑戦し、患者さん、医療従事者双方の負担が少ない、精密でゆとりある医療を目指します。
診断法、治療法の進歩に代表されるような医学の進展は、多くの医学研究の成果があって初めて実現します。多様な疾患を解析してきた既存の技術に、課題1~4の誇る新規的な光学計測、解析技術を加えることで、より精密で確実な研究手法の創出を目指します。人工臓器による疾患研究モデルの確立や疾患モデルでの新しい解析手法の確立に挑戦しています。このような研究手法から得られる知見を実際の疾患に応用することで、新しい視点から疾患発症機構を解明できることを期待しています。
参画機関:大阪大学、シスメックス株式会社
福田 恵子 [大阪大学 医学部附属病院]
研究開発された『テクノロジー』を、医療現場や地域社会に必要とされている『ニーズ』とマッチさせ、製品化するまでの支援を行っています。特に、医療機器、医薬品等において、必要な薬事規制と保険制度への対応のための専門チームによって支援しています。
開発者、その方を中心に活躍する方々、様々な役割を担う『人』が必要です。たとえば、開発者、臨床家、経営者、広報等、役割が違う方々が集まって、チームとして優れた製品を世の中に提供するために、必要な知識を学ぶ人材育成を行っています。
開発品を、医療機関、自治体、コミュニティー等に展開し、普及させるためにアンケート等を行い、使用に関してのアウトカムを検証します。その結果を開発者へフィードバックし、さらに良い製品にする『循環システム』の構築を目指していきます。
参画機関:大阪大学、産業技術総合研究所、未来医療推進機構、大阪産業局、大阪府、箕面市
私たちは大阪大学の強み、つまり多種多様な学科を有する教育機関であり、またASEANキャンパスや海外ネットワークを持っていることを活用。その上で、フォトニクス生命工学研究教育サテライトを立ち上げ、ASEAN各国にフォトニクス技術を社会実装し、SDGsの「3.すべての人に健康と福祉を」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」にアプローチしていきます。ASEAN諸国が抱えている人材や技術開発などの課題に対し、自分たちのリソースを提供することで明るい未来をともに描き、実現していくことが目的です。
現在、さまざまな企業や団体でのSDGsへの取り組みが盛り上がっています。必要な人や地域に貢献するため、私たちのプロジェクトでは、企業や地域団体からの参画メンバーと共に、世界の様々な地域、特にASEAN各国との協働を進める予定です。私たちの拠点がはSDGs達成のためのハブとして活用されることが目標です。
フォトニクス生命工学研究開発拠点は、さまざまな生体情報を計測、数値(デジタル)化し、活用することで社会を支えるフォトニクス技術の開発と社会実装を目的に生まれました。大阪大学、産総研、企業、地域からさまざまな知見をもった人材が交流し、マッチングや協働のきっかけとなるコンソーシアム「フォトライフ協議会」とも連携することで、豊かな未来社会の実現に向けた技術開発を行っていきます。