「フォトニック生体情報計測制御」プロジェクト

「生命体」は、異種との交配を繰り返すうちランダム化していくのではなく、特化した種として進化していく。これはエントロピーの増大という熱力学の基本原理に矛盾しており、その減小をもたらす外的エネルギーは、太陽からくる「光」ではないかといわれる。光は生命体群を創り、地上の生命体を生態系として進化させる。これまで多くの科学者は、生命の起源の探求に情熱を注ぎ、また光エネルギーと生命との関わりに興味を持ってきた。
一方、20世紀最後の約20年、人類は情報の通信や記録、加工などの目的に対して、レーザーや光ファイバーなど光技術を積極的に利用してきた。特に現在、フェムト秒パルスレーザーや紫外〜赤外の広帯域チューナブルレーザー、ニアフィールド光学顕微鏡など、従来想像もできなかったような新しい光テクノロジーが実用化されてきている。これらの新しい光を用いれば、歴史を変える光と生命体の新しい関わりが生まれてくるかもしれない。
そのような観点に立って、日本学術振興会の未来開拓研究推進事業(複合領域)の「生体の計測と制御」推進委員会(委員長:古川俊之国立大阪病院名誉院長)は、1997年度より新たに、「フォトニック生体情報計測制御プロジェクト」を発足し、筆者がそのプロジェクトリーダーに任命された。
同じ委員会に属する他の4つのプロジェクト(満渕邦彦東大医学部教授、堀正二阪大医学部教授、賀戸久金沢工大教授、民谷栄一北陸先端大教授が各プロジェクトリーダーを務める)と連係をとりながら、超音波、磁場、X線などの他の情報伝達波と生体との相互作用をもそのグローバル・ターゲットに組み入れ、医学・生物学と工学・物理学のそれぞれのスペシャリストによる競合的かつ融合的研究によって、これまでの医用工学の研究に新たなブレークスルーを開けるべく研究事業を開拓した。
筆者の研究室から、中村收助教授、井上康志助手、杉浦忠男助手が参加し、京都府立医大第2病理の高松哲郎教授、小山田正人助教授の参画の下に、阪大微研の岡部勝教授の協力を得て、さらに博士研究員としてZouheir Sekkat博士、村川幸史博士、波多野洋博士、金子智行博士という、光学・応用物理学の研究者を中心に天文出身、表面化学出身、生物物理、遺伝子工学、医学出身の各研究者の共同研究体を構成し、新しい「フォトニック生体計測制御」を目指している。

生体の光計測は、これまでにもたくさんの研究者によって研究がなされているが、調べてみると、応用物理の立場において感銘を受けるものはあまり多くない。本気で実用化するつもりなのだろうかと思われるような研究テーマや、あるいは実用化のためだけの研究テーマもある。このプロジェクトでは、私はここでは「重点領域」的にではなく、まさに「未来開拓」的に冒険をしたいと思っている。既に行われてきている研究はやらずに、今までだれも試みていないことを始めたい。
表1に、私たちのめざす未来の開拓テーマの例を示す。これらは、いずれもこれまでの生体計測制御には考えられたことがなく、すなわち未開拓の新しいテーマである。また、これらのテーマに共通することは、近赤外光である。下図に示すように、超短パルスの近赤外レーザーや光ファイバーなど、近赤外光をベースにした、光通信・光記録・光加工の技術を手にすることができるようになってきた。私たちは、これら最先端のフォトニック技術を用いて、組織から細胞レベルに至るスケールにおける生体情報の計測制御に取り組んでいる。


表1「フォトニック生体情報計測制御」プロジェクトの5つのテーマ

体内微小機器への遠隔的光エネルギー供給および光情報通信・制御
組織内生体情報の実時間レーザー観察:マイクロレンズアレイを用いた多光子顕微鏡
表面プラズモンポラリトンセンサと光導波路を用いた極微量な分子の選択的モニタリング
フォトン力学的血管内ドラッグ・デリバリーシステムの開発
フォトニック生体計測制御における非線形複雑系の逆問題

最先端フォトニクスで生体情報を計測制御



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Last Modified Jan. 8, 1999